こねずみちゃんものがたり

「ロボロフスキーちゃん物語」

■ 第13話〜第18話 ■

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第13話

え?
何??
「な、何で?」
俺は混乱した。
エックスの顔を見ると、決して皮肉ではないようだ。
[途中で気が変わったんでしょ?]
ええ??
俺は夢でも見たっていうのか?
いや!違う!!
その証拠はエックスのあちこちに・・・
「エ、エックス・・・?」
[助けてくれて]
えええ???
[嬉しかった]
????
俺は絶句した。
何だ?何が食い違っているんだ?・・・ひょっとして、あまりの衝撃に許容量を超えてエックスは・・・
「き・・・昨日の・・・事、覚えてるか?」
恐る恐る俺は尋ねた。
エックスは答える代わりに、体を少し起こして俺に・・・キスした。唇に。
お、覚えてるみたいだ。
俺はますます混乱した。

そんな噛み合わないやりとりをしている間にも、辺りは明るくなってきた。
そうだ。このまま二人で、いつまでもこうしている訳にはいかない。
俺は覚悟を決めた。
「エックス。よく、聞いてくれ。」
緑の眼差しがやわらかく俺を見つめる。
「昨日は辛い思いをさせた。お前がイレギュラーハンター本部に行くなら俺も行く。」
エックスに訴えられても仕方がない。戦闘用である俺たちは刑が重い・・・極刑の可能性もあるが、それも当然だ。
「ごめん。ごめんな。俺・・・」
その言葉の続きはエックスに遮られた。
エックスが俺に抱きついてきたからだ。
そのまま、いやだいやだというように首を振った。
なんだか判らないまま、俺もエックスを抱きしめた。
エックスを宥めるのに少し時間がかかり、それから後は、暫く会話にならなかったが、どうやらエックスは、俺を許してくれたらしかった。


第14話

エックスが落ち着くと、俺はまた別の問題に気が付いた。
二人とも砂だらけのままだ。
研究員の連中が活動を始めるまでには、まだ時間はある筈だった。
「その、エックス。・・・送って行くよ。シャワーでも浴びないと・・・・」
そう言うと、エックスは俺の体の砂に気づいたようで、ぱたぱたとそれを手で払い始めた。
「い、いや。俺はどうでもいいんだ。」
その言葉を聞いて、初めてエックスは自分の体を見た。わあっと驚いた顔をする。
やおらエックスが俺の手を握って、引っ張った。なんだ?
そのまま俺の手を引いて、ぐいぐい歩き始めた。何処へ行くんだ?

少し歩くと、さっきまで俺達がいた場所をぐるりと回り込んで下り坂に出た。遺跡の柱なんかが邪魔して見えなかったが、緩やかに下り坂は続いているようだった。
そのままエックスに連れられて降りていくと、やがてひらけた場所へ出た。
・・・・そこには、なんと湖が広がっていた。湖と言っても規模は小さいが、中心の水深はかなり急に深くなっているようだ。岸近くは浅瀬で底が透けて見えるが、少し先はいきなり深い碧色だ。
そうか。
これは遺跡のどれかが昔、保有していた水道施設の跡だ。この下に潜れば、貯水タンクか、破壊された水道管なんかがあるはずだ。
よく見ると湖の中心は小刻みに水が振動している。水中の機能は、完全に停止してはいないようだ。
そんな事を考えている間に、エックスはとことこと水辺に近づいて行った。
「おい、エックス。この水大丈夫なのか?」
エックスは答えず。そのまま、ざばざばと水に入って行ってしまった。
俺においでおいでをしている。まぁ、いいや。
二人でバシャバシャと顔を洗った。横を見るとエックスは水にひたり、体を洗っている。
・・・・こ、これって。
あの、つまり、一緒に風呂に入ってるようなモンなのか。
俺は一人で勝手に赤くなった。バカだな。
そんな俺に向かって、ピチャピチャと水が掛けられる。
エックスが手で水をすくっていた。
「いや、俺はいいんだってば。」
それでもやめない。なんだかその仕草が可愛かった。
洗い終えたようなので、俺はエックスをやおら抱き上げると、元の場所まで運んで行った。
二人でバイクに腰掛けて、体が乾くのを待った。この乾燥だ、じきに乾くだろう。
「エックス。」
俺は、エックスと同じ風景を眺めながら言った。
「また、会ってくれるか?」
エックスは答える代わりに・・・キスしてくれた。俺の両の頬に優しく。


第15話

エックスといつもの場所で別れた俺は、その足でイレギュラーハンター基地へと向かった。
バイクで荒野を走りながら、エックスの言葉が気になっていた。
俺のことを責めてはいなかった。けど・・・。
だからといって感謝される覚えもない。
エックスにいわゆる『その気』があったと言うならともかく。
いや、拒絶はされなかったけど、それは無い。それなら今頃こんな暗い気分じゃないさ。
エックスは俺の事を、行為の対象として考えたことなんて無かったんだ。
だからこそ・・・あのときのエックスは・・・俺が何かする度、びくりと震えていた。
ああっ、昨夜の事を思い出しちまった!
ガリガリガリッ!!!
俺のバイクが遺跡の角と接触して擦れ、派手な音を立てた。
あちゃー。俺は無事だがバイクと遺跡には盛大にキズが。
遺跡をむやみに傷つけると怒られるんだよな・・・誰も見てなかっただろうな・・・・。
ハンター本部に出勤しても、一日中、ぐるぐるとあの言葉がつきまとっていた。
何にしろエックスは俺の事、良い方に誤解しているんだ、多分。
・・・・このままにしておいた方がいいんだろうか。それにしても何だか騙しているみたいじゃないか。
今度エックスに会ったら、尋ねてみるべきか。
会って・・・くれるよな。
そんな心配をしながら俺は、また遺跡地区に出かけて行った。

結局、俺の心配は外れた。
和やかな日々は戻ってきて、エックスは前と変わらず俺と逢ってくれた。
いや、変わったか。
俺とエックスと、腰掛ける距離が20センチ縮まった。
お別れのキスは頬、それにもうひとつキスの意味が増えた。
そのキスをしてエックスを抱きしめながら俺は言った。
「エックス、俺とこうするの・・・嫌か?」
エックスは暫く俺の胸に頬をあてて考えていた。
「俺がこんな事するの、エックスが好きだからなんだ。本当だ。」
[俺もゼロの事が好きだよ]
「・・・・・」
それっきり、俺たちは無言で抱き合った。
だが、エックスは本当は何か言いたい事がありそうだった。迷っているようにも見える。
俺に対して怒りたいのを我慢しているのだろうか。
しかしエックスのからだの感触を味わいながら、熱さがこみ上げてくるのを感じて、俺は思わず深呼吸をした。それで俺の気配にエックスが気づいたようだ。
「エックス・・・俺、俺と今から・・・、その、ホテルでもいいかな」
[行くのは嫌]
「あ、えと、それじゃ俺の部屋でも・・・」
[ゼロのしたいことをしてもいいけど、シティに行くのは嫌だ。]
「え、でもこの辺じゃ何処も泊まれる所、無いぜ。」
[この前みたいなのでいいよ。]
「ええッ!?でもッあの、それって・・・」
ヤバいんじゃ・・・と。言いかけて止めた。
実際ヤバい事は、俺はもうしてしまっている。
エックス・・・まさか、ああいうシチュエーションに燃えるとか!?
馬鹿な考えがよぎったが、エックスはただ、俺の誘いを回避しようとしているのだろう。
嫌なら嫌と言ってくれれば・・・いや、言われたくないけどさ。このぶんだとエックスの部屋も却下かな。
俺は未練たらしくエックスの脚を撫でた。エックスはびくっと反応して、小さく息を飲み込んだ。
ちょっと意地悪な気分になった俺は、エックスの耳元で囁いた。
「エックス、外が好きなのか?誰かに見られてるかも知れないぜ。その方がいい?」
エックスは少しの間ぽかんとしていたが、俺の言っている事に気づくと慌てたように赤くなった。
ぶんぶんと頭を横に激しく振る。
やっぱりな。要するに、嫌なんだろう。
俺の気持ちを薄々察していて、わざと言っているんだ。
「エックスの事、俺以外のやつに見せたくないけどな。見られたら恥ずかしくない?」
俺は言いながら愛撫を続けていた。はぁ・・・、と、可愛い溜息が聞こえる。
敏感なのにその気が無いなんて、まいるよなあ。
「じゃあ、見てもらおうぜ。」
エックスは赤い頬のまま、今度こそ慌てた。


第16話

[待って!!]
「俺と一緒に来てくれるか?」
今度は同意の返事が来ると期待した。が、
[俺と来て。]
するっと俺の腕から逃れると、エックスは俺について来い、と身振りをして軽やかに歩き出した。
予想外だ。
今度は俺が慌てて後を追う。
エックスの歩みは意外なほど、速かった。
軽量設計を活かしているのだろうが、俺ですら手加減(この場合は足加減か)、せずに歩かないと遅れそうだ。
そういえば、前にエックスを抱き上げた時、随分軽かった。拍子抜けして逆方向によろめきそうになったくらいだ。

何処をどう歩いたか、遺跡の間をするすると進むと、そのうち眼前に建造物が立ち塞がった。何箇所か壁面が崩れ、室内がむきだしになっている。
どうするかと思ったらエックスは、ひょいと跳び上がって一段高い場所、元はこの建物の何階かの床に立った。こちらを振り返る。
俺にも来いってことか。
近道なのか?崩れた壁面を簡単そうにどんどん上へ登っていく。おいおい。
器用に段差を踏んで、足場を選んでいる。慣れていないと、こうはいかないだろう。
俺は後に続きながら、ある事が頭をよぎった。
「おーい、エックス。お前・・・」
尋ねようとした時、エックスが立ち止まった。
どうやらここが頂点か。遺跡地区が見渡せる。ちょっとした景観ポイントだなこれは。
すぐ下には別の建物が見える。エックスは今度はそっちに移って下り始めた。
やがて、中庭のような平面が広がる場所に出た。
登ってきたぶんより下った距離のほうが短い。高さとしては建物の中ほどだろうか?
中庭を横切り、エックスは更に奥へ進むと、不意に立ち止まった。
随分新しい扉が目に入った。
壁と材質は似ているが、その一画だけ周囲より風化していない。
?後から増築されたのだろうか。
エックスがその前に立つと、こともなげにその扉が開いた。俺に促すような視線を向けると、そのまま入っていってしまった。
「おい、いいのか入っちゃって!?」
とにかく追いつかないことには話もできない。
その内部も、予想以上に新しかった。
エックスは勝手知ったる足取りで通路を進み、エレベーターに乗った。俺も慌てて乗り込むと、下の階へ降りて行く。

止まった。
その階の通路を歩くとほどなく、シンプルな扉をくぐった。
中は、そこそこの広さの部屋だった。これまたシンプルで飾り気がないが、すっきりした印象で悪くない。
部屋と家具とのバランスがちょこっと妙だったが、すみっこにベッドやテーブル、椅子などが置いてある。もっと中央に置けばいいのに。
そして、そのすみっこのベッドにエックスは腰掛けていた。


第17話

見たところ、手前の椅子に座るべきかと思ったが、わざわざ遠くに座るのもいやなので、エックスの横に座ろうと思って近づくと、エックスがなんだか恥ずかしそうに頬を染めているのに気がついた。
うつむき加減で、もじもじしている?ようだ。
えっと?
俺はエックスの正面につっ立ったまま考えた。
そもそも何でこの部屋に来る事になったんだっけ?
移動した時間はそれ程経ってはいないが、かなり元いた場所から離れている。
随分といりくんだ場所だが、ここは一体どこなんだ?
・・・あっ、!!
「ここ、エックスの部屋か?」
こくんと、エックスが頷く。
そっか、エックスの自室なんだ。なんだか、変わった場所だけど・・・
いや!そんな事はどうでもいい。
エックスが俺を部屋に入れてくれたって事のほうが、重要だ。
「横、座ってもいいかな?」
エックスはもう一度、こくんと頷いた。
俺は、エックスの横に腰掛けながら、柄にもなく赤面した。
それって、つまり、・・・OKって事か!?
いや、まて。
落ち着け、俺。
この前だって、がっついて、あれ程後悔したんじゃないか。
エックスと座っているのが、ベッドなだけに余計ドキドキしてくる。
柔らかめのマットレスらしく、俺の体重でシート面がへこんで、エックスの体がもたれかかってきた。
支えようと思って、エックスの肩に手をかけた。
するとエックスが、顔を上げて、俺を見た。
そのまま、・・・エックスも何か言いたげだったのだが、互いに言葉がでずに、しばらく見つめ合ってしまった。
俺は・・・そのまま、エックスを抱きしめた。
どうして、こう、甘い言葉の一つも思い浮かばないんだろう。
やっぱり、そのままキスをした。
そのまま、ベッドに二人で横になった。
優しくしたつもりだけど・・・
エックスは、こんなとき反応がおとなしいから、実のところ良いんだか、悪いんだかよく分からない。
そうういうとこまで、俺がちゃんと判らないといけないんだろうな。
でも、もうちょっと、いいとか、嫌とか・・・
・・・嫌だったら・・・困るな。
「エックス。」
呼びかけると、エックスの大きい瞳が見つめ返してきた。
「・・・意地悪な言い方したりして、ごめんな。」
エックスはきょとん?とした顔をした。
あ、怒ってはないみたいだ。
よかった。


第18話

エックスの腕が、俺をぎゅっと抱きしめた。
・・・これがエックスの気持ちだとしたら、俺のこと好きだと言ってくれているのだろうか?
俺は、とたんに嬉しい気分になった。
部屋の中は、お互いの気配以外、静寂に包まれていた。
エックスが出してきてくれた、良く知らない銘柄のエナジー缶を二人で飲んだ。

エックスの部屋を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
来るとき通った遺跡の頂上から、ハンター基地のある市街地区の夜景が、地平にそびえて見えた。
明かりが灯ると随分近くにあるように見える。
「凄いな。とっても綺麗だ。」
何のひねりも無いが正直感動した。
エックスはと観ると、俺が立っている横に膝を抱えて座っている。
俺も、まねして隣にに座ってみた。
[ゼロ。]
「ん、どうした。エックス?」
[俺はあそこに帰らないと駄目かな?]
「帰らないと?駄目って?帰りたくないって意味か?」
[うん。]
「そんなに帰りたくないのか?」
エックスは暫く膝に顔を伏せて考えている。なんだなんだ?
[ううん、本当は帰りたいんだ。]
「それ、どういう事だ?帰る場所がないって意味か?」
[うん。俺、飛び出しちゃったから。今更帰れない。]
家出!?か、その飛び出したっていう元の場所には、誰といたんだろう。
ひょっとしたら彼氏・・・いや彼女か、と喧嘩別れでもしたのか。
「そんなの。会いたくない奴と会うのが嫌だから帰れないのか?そいつとずっと離れた区画に引越しすりゃいいじゃんか。」
[え、でも。]
「そうだぜ!そんなの。」
あ、今何か俺の中で
「いく所がないなら、俺の部屋に来いよ!!」
どはー、言っちまったー!
エックスは驚いたようだ。



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