こねずみちゃんものがたり

「ロボロフスキーちゃん物語」

■ 第8話〜第12話 ■

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第8話

情報ボードにエックスの言葉が現れる。
[本当は俺、イレギュラーハンターってみんな怖い人ばかりかと思ってた。]
ぎくっ。
[でもゼロみたいに優しい人もいるんだね。]
・・・俺のは優しいんじゃなくて下心だけど。
なんとなく照れくさく、後ろめたい。
その場をごまかそうと思ったが、特に何も思いつかなかった。
そうだ、バイクに支給品のエナジー缶があったっけ。
「ちょっと、まっててくれ。」
そう言うと、俺はひとっ走りエナジー缶を取ってきた。エックスに投げて渡す。
「これ、良かったら飲むか?パッケージは味も素っ気も無いけど。けっこー旨いぜ。」
受け取ったエックスは俺と缶を代わるがわる見ていたが、嬉しそうに頷いた。
そうして二人でエナジー缶を飲んだ。俺がごくごくと一気に飲んで横を見ると、エックスはちびちびと舐めるようにエナジー缶を口にあてている。
「不味かったか?」
支給品なので、一応どんな奴にも飲める万能型なんだけど。
エックスはぷるぷると首を振った。そのままにこにこと飲み続けている。
「こうしていると、ピクニックみたいだな。天気もいいし。」
エックスも頷いた。
でも俺はピクニックなんか一度もした事ない。こんな楽しい気分になるなんて、今まで知らなかった。損してたな。

「俺、今日はとても楽しかった。」
[うん、俺もだよ。]
その日の別れ際、俺はまるで不意打ちのように、エックスの頬に口付けしていた。
「じゃあ!またな。」
そう言うと俺は何でもない振りをしてバイクに乗った。
ギリギリ挨拶でごまかせるタイミングだった筈だ。姑息だな・・・・・・。
エックスは少しきょとんとしていたが、すぐに、にこっと笑った。
そして(またね)という様にバイバイと手を振った。
そんなエックスに見送られながらバイクを発進させた。


第9話

それから、俺とエックスは、たびたび逢うようになった。
いきなり、走り去られる事も無くなった。
エックスが用意してくれた文章ボードだが、しばらくすると、必要な時以外はあまり使わなくなった。
何度か話すうちに、なんとなくエックスの気分が解るようになってきたし、エックスは元々自分からあまり話す質ではないらしい。
専ら俺の話をじっと聞いては、にこにこしている。
ただ、気になる事はあった。

「なあ、エックス。休みの日とかあるか?」
俺の質問の仕方が悪かったのか、エックスはいま一つ解らないような顔をした。
「今度さ、街で会わないか?どっかで飯食うとか、遊びに行こうぜ。」
ずばりデートに行こうとは言えないので、ごく普通に誘ったつもりだったが、エックスの反応は思った以上に硬かった。
[ごめん。シティには行けそうにない。]
エックスの顔は、深刻そうに曇っていた。
「いや、ちょっと聞いてみただけだ。忙しいなら別にいいんだぜ。」
遺跡調査がヤマ場にでも差し掛かってるんだろう。
押しなべて研究員達は、傍から見ると実にのんびりと仕事をしている。実際、3時のお茶なんかしながらだ。パトロール中に誘われた事もある。
が、研究も佳境に入るとそうも言っていられないようだ。
しかし、それから間を空けて、何度か誘ってみたけどダメだった。・・・まさか俺の下心を見透かされて・・・!?
いや、エックスの表情の変化はもっと真剣だ。うーむ。
それにしても休みナシとは。オーバーワークなんじゃないのか?
街と往復するのが面倒なだけかもしれないが。(こっちで研究施設に住み込んでいる研究員もいる)
そのせいで、言語機能のメンテナンスに手が回らないとかだったら、かなり問題だ。
でも、エックスは仕事の話はしないからなぁ。避けているのかもしれないので、根掘り葉堀り聞くわけにもいかない。
だから俺達は、相変わらずいつもの遺跡地区で逢っていた。
俺としては雰囲気の良い店にでも一緒に行きたいんだが。
エックスがいける口なら酒でも飲んで、盛り上がった所でイッキに!・・・てのは都合良すぎるか。
エックスは、今のままで別になんて事ないんだろう。
・・・まあ、普通そうだよなぁー。ちきしょー。
挨拶キスは、なんとか平気みたいだ。実は変な奴と思われているかもしれないが。ごく自然に受け入れてくれた。
エックスも俺の頬に返してくれた時には、そのまま唇を奪いそうになったが・・・。
いかんせん、あの大きな目は『挨拶』だと何の疑いもなく信じている。
その<信頼>を見てしまうと我に返った。
複雑な気分だ。
人懐こい緑の瞳で、じっと見つめられると、抱きしめてしまいそうになるんだ。


第10話

その日は、ここに来た時間が遅くなったので、俺が帰る頃には夕暮れ時になっていた。
見事な茜色が空一面に広がった。
そう言えば、夕焼けなんか、気に留めて見てなかった。
遺跡に影が落ち、明るく夕日を受けた部分と、強いコントラストを描き出す。
空と同じ光に照らされ、エックスも、青い表面材に茜色が反射して紫がかって見えた。
赤いクリスタルと、緑の瞳も、夕日を浴びていつもと違う色で輝いている。
幻想的だった。
理由もなく胸が騒いだ。
俺はエックスを抱きしめ、口付けした。
唇に。
エックスは訳も解らず、ごく単純にいつもと違う事に驚いていた。
もっと深く唇を求められて、やっと事態に気が付いたようだ。
とっさに俺から離れようとしたエックスをそっと引き戻したまま、たっぷりとエックスとのキスを味わった。
目を開けると、エックスの潤んだ瞳が俺を見ていた
唇を開放すると、「はぁ。」と溜息がもれた。
夕日のせいでなく、真っ赤に染まった頬に今度は口付けた。
「俺の物になってくれ、エックス!」
そう言って、また強く抱きしめた。
エックスは・・・腕の中で暫く困惑していた。
もうちょっと、気のきいた告白セリフが言えたらよかったんだが、何と言えばエックスがその気になってくれるか全然解らない。考えてるって事は、まだ希望が持てる・・・よな。どうやって、穏便に断ろうかを考えてる訳じゃない事を祈るしかない。
長い時間に感じたが、多分俺の気分のせいだろう。
答えを待ち続けていると、
ようやく俺に身を預けてきた。
俺は嬉しさのあまり、自分の体の奥が、かあっと熱くなるのを感じた。
もう一度、エックスを強く抱きしめ、口付けた。


第11話

俺は、無我夢中で、エックスと何度もキスをした。
エックスは、ただただ顔を真っ赤にしながら、俺の腕のなかで暴れるでもなく、それでいて、応じてくるでもなく、されるがままだった。
頬や首筋にキスをしても、怒るふうでもなく、おとなしく身をまかせている。
俺は勝手にエックスが嫌がってない事にした。
自分が、どんどん欲情に燃え上がってくるのが解った。
抱きしめ、肩や腰を撫で回しても、エックスはそのままだった。
俺達を照らしていた光は徐々に失われ、橙色の空に青い闇がやってきた。
夕日が落ちた。
辺りは、もう黒い影の形だけの風景だった。
俺はまだキスを続けていた。
エックスを抱きかかえるように、すぐそばの岩だなに座らせると、足に手を触れた。
エックスは、唇を奪われたまま、ビクッと驚いた。
初めて、エックスが嫌がったが、けっして放さなかった。
しばらくして、エックスは短い悲鳴をあげた。
こんな可愛い悲鳴があるのか。
安心させるように頬を寄せると、ぎゅっとしがみついてきた。
エックスの息使いが聞こえた。
やがて。
甘えるような、悲しいような、切ない声。
エックスに夢中になりながら、俺は言った。
「お前の声、初めて聞けた。・・・こんな声だったんだ。」
エックスは、その言葉を聞くと、一瞬動きが固まった。
かあぁぁぁっ!
と、たちまち赤くなり、慌ててエックスが口を押さえようとする。
その手を離させながら、
「聞きたい。
お前の声。
もっと。
ずっと。」
俺の息も荒くなっていった。


第12話

白々と夜が明けた。
いつもの太陽が戻ると、俺は猛烈に後悔した。
いや、後悔はしていない。けど、罪悪感でいっぱいだった。
昨日は、あのままエックスを抱きしめ朝まで眠ってしまった。
こんな風に誰かと屋外で泊まるなんて、考えた事もなかった。
仕事で徹夜はあるけど、それなら外で眠らない。
オレより先にダウンしてしまったエックスと、バイク備品のメタルシートに包まって一夜を明かした。
エックスを無理にでも起こして、家まで送るべきだった。
なぜこんなに後ろめたいかと言うと、昨日は気が付かなかったが・・・エックスは砂だらけだった。
頬に涙の跡が付いていた。
いつ泣いたのかは解らない。昨日、泣いてはいなかったが。
・・・恋人と甘い一夜を過ごした姿ではないように見える。
・・・俺のせいだ。
寝顔は、かろうじて心地良さそうなのが救いだが、まだ眠り続けるエックスを胸に抱いて、呆然と、緑の瞳が俺を映すのを待った。
まだ、辺りは早朝で、うっすらとモノクロ写真のようだった。
だんだんと風景に色彩が付いてくる。
俺は、ふと落ちている文章ボードに気が付いた。エックスのだ。
眠っている持ち主を起こさないようにそっと寝かせると、ボードを拾った。
エックスの傍らに戻り、その横に腰掛ける。手にしたボードを眺めた。
もちろん何も書かれちゃいない。
昨日エックスはどんな気持ちだったんだ。

その時。
ワシャワシャ・・・・
!!エックスだ。
我に返って覗き込むと、エックスがメタルシートの中で身じろぎしたところだった。
そして、ゆっくりと目を覚ました。
まだ意識はぼんやりとしているらしく、俺を見ても何の反応もない。
とろん・・・としたエックスの緑の、その瞳がぱちっと見開かれた。
俺の顔を見る。
俺もエックスを見る。
エックスは・・・俺に気が付くと顔を真っ赤に染めた。
え?
「エ、エックス・・・」
俺はなんとか昨日の事を謝ろうと、言葉を探した。・・・・出てこない。しっかりしろ!!
俺の言葉の続きを、エックスは待っててくれた。
「エックス・・・俺、俺な」
さあ、謝るチャンスは今だ!エックスが許してくれれば・・・また・・・・。
エックスと楽しく過ごした一時が頭をよぎった。昨日だってそうだった。壊したのは俺だ。
遠い昔みたいだ。
覗き込んだ姿勢のまま、俺は固まってしまった。
エックスが手を伸ばしてきた。
張り手でも食らわされるかと思い、じっと待った。
その手は・・・俺の頬に優しく添えられた。
え?
そうだ、ボード!
「あの、これ。これ無くて困っただろ?」
そうだ。エックスは拒絶の言葉だって話せなかったんだ。
エックスはボードを受け取ると、何かを書いて俺に向けた。
読むのが怖かった。

そこにはひとこと。
[ありがとう。]


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