こねずみちゃんものがたり

「ロボロフスキーちゃん物語」 

■ 第30話 ■

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「なんでお前がイレギュラーなんだよ!」
慕っていたシグマ隊長に怖い思いをさせられて、飛び出したから?
それがイレギュラーだって?そんな馬鹿な!
保護してくれる筈のケイン博士からは、あんなハンター連中を差し向けられて・・・
博士はエックスを連れ戻したいだけだったにしろ、イレギュラー扱いされて、エックスは本当に自分がイレギュラーだと思い込んでしまったのだろうか。
「イレギュラーってのはな、極悪非道の犯罪レプリロイドだ。他の奴と仲良くできないんだよ。エックスはちゃんと「教授」のとこで、皆と働いてたじゃないか!」
こくり。エックスは小さく頷いた。
「だったら・・・」
[でもゼロのお友達に怪我させたの・・・そんなつもりじゃなかったのに。本当だよ、信じて・・・]
「!?」
[悪い子イレギュラーは・・・シグマに・・・殺される]
「シグマ隊長がそんな真似するもんか!」
エックスに未練タラタラだもんな。可愛さ余って・・・?そんなに頭悪くないだろ、シグマ隊長は。
エックスはまたぐしぐし泣き出した。
俺はエックスの肩を撫でながら考えた。それにしてもイレギュラーハンターを・・・8人?病院送りだと?確かB級4人、A級3人、・・・特A級だって一人いたんだ。
・・・・・
偶然やアクシデントなどではない。
馬鹿な。このちっこいエックスが?どうやって?こんな泣き虫のエックスが?
ひょっとすると戦闘用装備は後付け型か?咄嗟のとき、間に合わないぜ?・・・装備は・・・転送式で物理的に強化できても、戦闘に耐えるプログラムが・・・機動性だって・・・
・・・・・ああ!
やっと解った!
時々頭を掠めた、エックスに感じていた事!
機動性能!!
あの足の速さ、身軽さ。足場の悪い場所でも全く落ちないバランスとスピード。
俺と同じか、それ以上!!
「エックス・・・・お前、戦闘用だったから・・・」
エックスは大きくかぶりを振った。
[違う!違うよ!!俺、怖くって、もう戦えない!!戦えないよ、これ以上!!]
イレギュラーハンターとの戦闘が重大な心理的外傷を引き起こしているらしい。俺にしがみついてエックスは震えた。恐慌状態に陥りそうだ。
[怖いよ、怖いの!!]
「エックス、俺がついてる。他のハンターの奴らには手を出させやしない」
エックスは怯えた緑の瞳で俺を見上げた。
「本当だ。」

俺はエックスをなだめて部屋まで連れて帰った。
とんだツーリングになっちまったが・・・本音を言うと、エックスの事がいろいろ解って嬉しかった。
勝手かな。この24時間で、随分変わった。・・・エックスは俺に黙っていたかったろうけどな。
俺、こんなに詮索好きじゃない筈だけど・・・謎めいた恋人のままでもいい筈だけど・・・
実際にエックスをイレギュラーだと認識しているのは、あのマックの野郎とか、エックスに負けて・・・なんか想像できないぜ・・・軟禁入院くらってる奴らくらいか?ケイン博士が極秘扱いで事をすまそうとしたのが、良かったとも言える。
ベッドでまだぐすぐす言っているエックスを眺めた。
イレギュラーがこんな風に泣くかよ。
ただ、ひょっとして。戦闘時は特殊プログラムに切り替わる型だとしたら・・・
それにしたって!
戦わなけりゃならないような事態に追い詰めたりさえしなきゃいいんだ!
「エックス」
俺はかがみ込んで、涙のあとだらけの頬にキスした。
「お前が欲しい」
キスする度、ぽっとピンクに染まるみたいだ。
「誰にも渡すもんか」
エックスの表情が少しだけやわらいだ。俺の手を捜す指も、濡れてつめたい。
「エックス・・・」
抱きしめてその手を握ってやると、エックスはようやく安心したように小さく微笑んだ。
[ゼロ・・・ゼロのお友達・・・怪我はよくなった?]
友達?
「ああ、入院組の奴らのことか?修理は済んでる筈だ」
[良かった・・・すごく痛い思いしたよね、きっと・・・ごめんね]
・・・やっぱ、こんなイレギュラーいねぇよ。
「ああ、もし会ったら伝えとく」
とは言ったものの・・・会わせろって言って、会わせてもらえるかどうか。物分りの悪い奴なら、そんなの聞いたら逆に怒るだろうし。
ま、そんな事、今はいい。
俺はエックスを求めた。エックスは俺にぎゅっとしがみついて、顔が見えなくなった。耳元の呼吸が速くなる。それを感じていた。
可愛い喘ぎ声が心地良い。
この声で・・・
普通に話せるよう、やっぱケイン博士に診せなきゃ駄目か。
朝、お早うと言うとか。飯の時、いただきますと言うとか。
・・・・愛してると言うとか。
あ。俺・・・
エックスに、「愛してる」って、ちゃんと言ったっけ。
・・・・・・・
どうしよ!!覚えてねぇ!!
エックスが一際高い声を上げた。

俺は冷や汗をかいていた。
解って・・・くれてる・・・よな。
今すぐ口に出して言おうかと思ったが、・・・・うーん。どうせなら感じの良いシチュエーションでだな。
「・・・なぁエックス。教授の所、休みの日もあるだろ?」
こくり。
「休みは何してるんだ?」
ふるふる。
「?え、どういう意味だ?」
[何もしてない]
「だったら、俺と街に遊びに行こうぜ!」
エックスの顔がまた曇った。
「平気だって!ハンター本部に行かなきゃいいんだろ?指名手配されてる訳じゃなし」
エックスがびっくりした顔をした。
[俺、あそこに帰ってもつかまらないの?]
今度は俺が驚いた。
「捕まらねぇよ!」
なんとまあ・・・そっか。エックスにしてみれば真剣に、捕まって・・・殺されると思ってたんだ。
エックスはひどく難しい顔で起き上がり、膝を抱えて考え込んだ。
「大丈夫だって。エックスはイレギュラーじゃないって言ったろ?」
不安そうに俺を見るエックスの目には、困惑の色がある。警戒かな?
「エックスだって、本心は帰ってみたかったんじゃないのか?」
エックスは顔を伏せて、ごくごく小さく頷いた。
「ここも、あそこも変わらないって!」
エックスは、それを聞いてはっとした顔をした。そして、まじまじと俺の顔を見た。


続く

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