こねずみちゃんものがたり

「ロボロフスキーちゃん物語」 

■ 第29話 ■

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くねくねと遺跡群を抜けた俺達のバイクは、砂地までやってきた。あたりは真っ暗なので、市街地区の強烈な明かり以外は何も見えない。まるで、こことあの街までの間に、大きな穴か波のない河でもあるみたいだ。
ふと、エックスはこんな風景ばかり眺めていたから、あの街に帰れないなんて錯覚を起こしたんじゃないかと思った。
バイクを停めた俺は、エックスを抱きしめた。
後ろから頬にキスする。エックスは少しこちらに顔を向けた。
「エックス。帰りたかったらいつでも帰れるんだぜ」
シグマ隊長やケイン博士の所なんかじゃなくても、あの街にはいくらでも居場所くらい。
・・・・・できれば、それは。
「俺の部屋だったらいつでも、いつまでだって、居てくれていいんだ」
エックスは困惑した眼差しを向けてきた。
やっぱり、それは嫌か?・・・まあ、そうかもな。
「ごめん。エックスの気持ちの問題だもんな」
エックスはふるふるとゆっくり首を振った。否定の意味だろうが、話のどの部分の事だろう?
「エックス・・・・」
俺が尋ねようとした時。はるか向こう、市街地区の方角から明かりがひとつ近づいてきた。
「何だ?」
センサの反応は・・・なんだイレギュラーハンターじゃないか。
しかし?この時間この区域にパトロール入ってたかな?
抜き打ちパトロールかも。緊急出動だとしたら俺のバイクに何の連絡も入らない筈がない。
そんな事を考えて見ていると、だんだんこっちに近づいてくるぞ、おい。・・・こっちの車体認識標は照会すればすぐに知れる筈だぜ?こんな所にいるから変だと思われたかな。偽造標だとか。
ま、職務質問されたらすぐに誤解だと判るだろ。
エックスをシートに乗せたまま、俺はバイクの横に降り立った。
「あれ、俺のお仲間らしいや。何しに来るのか判らないけど」
途端にエックスがびくっと体を震わせるのが伝わってきた。そうだ、エックスは元々ハンターに怯えてるところがあったんだ。
「大丈夫さ。俺がついてる」
エックスはそれでも不安そうな表情を隠せない。俺を見上げて、すぐに俯く。
もう目視で判るほど、そいつはすぐそこまで来ていた。俺はエックスの肩に少し触れた。
「これでも、17部隊のゼロって言やあ、そこそこ通る名前なんだぜ」
俺達イレギュラーハンターの中でも、俺みたいな特A級は数が限られている。そんな中でもシグマ隊長率いる第17部隊は格段の保有率だ。しかし・・・精鋭部隊所属とはいえ、それでも特A級だということは、良くも悪くも目立つ存在だ。
と、案の定そいつは俺達のバイクの前で停まった。エンジンは掛けたまま、ライトは無遠慮に俺達を照らしている。
「おい、眩しいだろ。ライトを下げろ」
これくらいの逆光大した事ないが、態度悪いぞ。そんなだから、エックスみたいに不信感をだな・・・・・
「あの話・・・本当だったんだな」
「何だって?」
「精鋭部隊のゼロさんともあろうお人がイレギュラーと寝てるってな!!」
そいつが激昂した様子で語気荒く吐き捨てた。よりによってなんて言い掛かりだ!
「この野郎!いきなり何言い出しやがる!?」
「その見かけだけは可愛いイレギュラーにくわえ込まれたっつってんだよ!」
言葉選べッ!何断言してんだ!!エックスが怯えるだろうが!!
「目を覚ましな!何て吹き込まれたのか知らねえが、そいつにもう8人も食われてるんだぜ!?」
8人?
「待て、そいつは何かの・・・・」
「ああ、ひょっとして、あんたの方からお願いしたのかい?」
「何んだとッてめえ!誰に言ってやがる!!」
そいつは、急に怒鳴るのを止めた。
「なんで戦わねえんだよ・・・?あんたなら・・・そいつを倒してくれると思ったのに・・・」
「だから、それは!」
「無傷で捕まえろだって!?そんな凄ぇイレギュラーを!?無茶苦茶言いやがるッ」
「・・・・・」
俺はそこで、ようやく思い至った。こいつ、エックスを確保するために派遣されたハンターの一人なんだ。エックスのことを、凶悪なイレギュラーとか思い込んで・・・・
「おまけにメンテナンスだの何だの言って、とどのつまりは口封じの軟禁じゃねえか!」
「・・・エックスのせいじゃないだろう」
犯人は・・・・
「ケイン博士か?」
「任務で可愛い子ちゃんと寝られるなんて、男前に造っといてもらうモンだねぇ」
「いいかげんにしろ!!」
「そうじゃねえか!イレギュラーを手なづけて給料貰えるとなりゃあ!」
だめだ。こいつ完全に逆上しちまってる。
俺は黙って歩み寄ると、そいつを思い切りぶん殴った。
奴はバイクごと派手な音を立てて倒れ込み、エンジンが不平を鳴らすように一度ブオォーンと嘶いた。
奴の腕を掴んで立ち上がらせると、俺は確認してみた。
「さっきからお前、ベラベラ勝手なことを・・・ケイン博士の差し金なら、『エックスを保護しろ』って言われたんじゃないのか?」
奴は不承不承頷いた。呆れた奴だ。
「全然話が違うじゃねえか!」
「だからって!!そんな小悪魔と・・・あんた、そうまでして・・・いや、あんたにゃたいしたことじゃないのかい・・・」
まだブツブツ言ってやがる。もう一発殴ってやろうかと思ったが、エックスにハンターの連中は野蛮だとか思われちまう。
「お前の任務を果たせ」
とりあえず正論だろう。
「任務の内容が疑わしいなら、遂行する事はない。だが、ここで叫んでいても何も変わらん。訴える場所はここじゃない」
ギロッと睨み付けて念入りに釘を刺した。
「任務外の戦闘は・・・場合によっちゃイレギュラーだぜ?」
ついでに俺が引き起こしてやったバイクに跨り、それ以上言うことなく奴は戻っていった。
納得はしていないだろうが・・・・ケイン博士の部下の失敗ってのは、これか。
どこをどう間違ったんだか、こんぐらかってる。
振り向くと、エックスはかわいそうに蒼い顔をしている。
「・・・あいつの言ったこと、気にすんなよな。何か、勘違いしてんだよ・・・」
エックスは目に涙を溜めて、震える手でボードを差し出した。
[だって本当のことだもの]
へ?
「何が?」
それっきり、エックスは泣き出した。
「おい、エックス・・・あんな馬鹿放っておけってば」
俺はエックスの横で途方に暮れた。あんな酷い事、いきなり言われりゃショックだろうけど。
ああ、そうだ泣き止む方法が・・・
バイクに跨り、体を寄せてエックスを抱きしめた。肩や、背中をなるたけ優しく撫でてみる。
[ありがとう]
「なんだよ礼なんて。イレギュラーハンターって口が悪いんだ。ごめんな」
エックスは頬を濡らしたまま、ボードを操った。
[どうして]
「ん?」
[どうしてゼロは、俺みたいな悪い子イレギュラーに優しくしてくれるの?]


続く

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