こねずみちゃんものがたり

「ロボロフちゃん物語」

■ 第1話〜第4話 ■

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第1話

ずっと俺は此処で暮らしてたんだ。
此処はハンターベースって言う建物。俺は上の階にあがった事ないけど、上では沢山の人がいろんなお仕事してるんだって。俺がいるこの地下フロアだって端から端までとっても広いのに、それが何層にも重なってるんだって!凄いよねえ。ここにいるより沢山の人なんて、想像もつかないや。
俺は此処で狭いとか退屈とか思った事、無かった。
俺には、シグマとケイン博士がいたから。

二人とも、とっても優しかった。いつも、にこにこして俺の話を聞いてくれたんだ。
でもどっちも忙しいからあんまり会えない時もあった。
シグマに会えない時やケイン博士が研究でお忙しい時には、俺は一人で本を読んだり、ニュースを見たりして・・・映画なんかも好きだな。あと、ほんとはもっと難しい情報を覚える為に、ケイン博士が俺にくれた情報ボードもあったけど、急がなくてもいいって言ってくれたから、お勉強のほかにもいろんなことにボードを使った。
でも、俺が知らない事、シグマはなんでも知ってるの。
俺だって何も知らないわけじゃないよ。
でも、この街の事とか全然知らないの。みんなは生まれた時から知ってるっていうのに。
そう言ってみたこともあるよ。

「不公平だなぁ、俺を造った人どうしてそんな手抜きしたのかな。ねぇシグマ。」
あ、俺を造ったのはケイン博士じゃないんだって。最初そうなのかと思ってたんだけど。
「手抜きではないよエックス。」
シグマは笑いながら答えてくれた。
「きっと都合があったんだよ。」
「だってシグマみたいに頭が良かったらお勉強しなくていいでしょ?」
「別に私は頭が良いわけではないよ。君のAIは最高級品だ。」
えー。ケイン博士もそう言ってくれるけど、そんな風な気はしないけどなぁ。

シグマが来てくれると、いつも見てるドラマの話や、ニュースで見た出来事や色々な事を話した。シグマが聞いてくれると俺は嬉しくていっぱいお話したし、シグマが笑ってくれると俺も嬉しくてにこにこした。
「シグマ、次はいつ会えそう?」
「ああ。来週になりそうだ。」
「じゃあ、お仕事がんばってね!けがしないで。」
挨拶の時シグマは俺を抱きしめて、かがんで俺のほほにキスしてくれる。これはシグマとケイン博士とだけの挨拶なの。

シグマはイレギュラーっていう悪い人たちを捕まえる大事な仕事をしている。
そのシグマやみんなのお仕事を、ニュースでちょっと見たけど、ほんとは俺、恐かった。
俺は楽しいお話が好き。みんなが楽しそうなのが好き。
南区に新しくできたショッピングモールの話題なんか素敵だった。映ってる人みんな嬉しそうだったもの。
いいなぁ。行ってみたいな。
シグマにそう言ったらちょっと困った顔してた。
「買いたい物があるのかね?」
「ううん。あの場所に行ってみたいだけ。俺、お金ないもの。」
そう。俺、外にちょっとあこがれてた。だって楽しい事がありそうだから。

「ごめんねシグマ。忙しいのに。」
その日シグマは俺をハンターベースの屋上につれていってくれた。
「すごいなぁ!きれいだねぇ、シグマ」
俺は嬉しくなってフェンスにしがみついて、遠くのとおくまで景色を眺めたんだ。
「あんな向こうまで街がつづいてる。小さいビルがいっぱいあるね。あぁ青空ってこんななんだ!」
でも、その後シグマはケイン博士に俺のせいで怒られちゃったの。
ほんとは俺、勝手にエレベーターに乗っちゃ駄目だったんだって。
だからこっそりシグマに謝った。
「ごめんねシグマ。わがまま言って。」
「君は悪くない。当然の欲求だ。」
「ありがとうシグマ。俺、シグマの事、大好き。」

お休みの挨拶をしようとすると、今日はシグマが正面から俺を見ている。
いつもよりちょっとゆっくりと、おおきな手が俺の事をだきしめた。
シグマのくちびるが俺のくちびるに触れた。あ、これってくちびるにする事もあるんだ。
「・・・・・」
俺はなにか言おうと思ったけど、なにも言えなかった。
シグマはなんでだか、黙って出ていっちゃった。

それから、シグマの挨拶はなんだか長くなった。
俺の事だきしめる時間、くちびるを合わせてる時間。
頭だけじゃなくて身体ぜんたいをなでてくれる様になった。
俺はどっちの挨拶が好きとかなかったけど、ケイン博士とは前といっしょだったから、不思議に思って聞いてみた。
「シグマ。どうしてこういう風にするの?」
シグマの大きな胸が、どきどきしているのが伝わってくる。

シグマはだきしめた俺の首のとこに顔をおしつけて、ぎゅっと力を入れた。
シグマのくちびるが、なにか言ったみたい。
それからあったかくて湿ったものが、おんなじとこに触れた。
「やっ、シグマ。くすぐったいよ。」
俺はびっくりしたけど、ほんとにくすぐったくて笑いころげた。
シグマが首のとこを舐めたんだ。
「なに?なにしてるの?」

俺は笑いながら聞いたんだけど、シグマはこたえてくれなくて、俺の事をそのまま床に寝かせたんだ。
どうして床なんかに寝かせるの?
シグマが俺の上におおいかぶさってくる。思わず目をつぶった俺のまぶたに、シグマはキスをしてくれた。キスは俺のくちびるにもやってきて・・・俺の口をすっかりふさいだ。
目を開けるとシグマが苦しそうな顔をしてた。あんまり近すぎてよく見えない。
「ん、・・・シグマ、」
なにか言おうとしたけど、駄目だったから、シグマは何にも話したくないって意味なのかな。


シグマの指が俺の足の間をなでた。
あ、こんなとこをなでられるの・・・初めて・・あ・・・何・なに?
ほかの・・とこ・・と・感じが・あ・・。


俺とシグマはしばらくそうしてた。シグマの手はやさしく俺の事をなでてくれる。くっついたほほがとってもあたたかい。
俺は気持ちいいな、と思った。でも、どうして、シグマはそんなに苦しそうなの?
足の間に前より深くシグマの指が入ってきた。
あ、痛・・・!

「ああぁっ!?」
「エックス!!愛してる!!」
シグマの声がやっと聞こえた。
あ・愛してる・・・って、すごく・・好きとか・・・大切とか・・たしか・・そんな・意味。
でも・・ど・・して・・?

俺は、はじめての事ばかりで混乱した。シグマがなにをしてるのか、俺がどうなっちゃうのか。
シグマには解ってる事みたい。
ああ、まだ勉強してないことなんだ、きっと。
シグマはもっとつよく指を動かした。
「ああっ、シグマ!待って!あ、や・・やめ・・やめ・・て・・」
ひっしにシグマに助けを求めたんだけど、うまく言葉がでない。きゅうに俺はシグマの事が恐くなった。
やだ・・・やだよ。こんなの。
そのとき、シグマが指を動かすのをやめた。あ・・・良かった・・・
そう思った時、シグマが俺の体をぐっとおさえつけた。
え、なに?

次の瞬間、すごい痛みがした。
何がおきたか、痛くて最初解らなかった。シグマが俺の体をねじまげて壊そうとしているんだと思った。
俺は息がつまって悲鳴もあげられなかった。
「シ、・・・!」
ちっとも考えがまとまらない。
俺の体にかかってる重さが恐かった。
シグマの手が俺の手をぎゅうっとにぎりしめてる。
痛いよシグマ。
どうして俺のこといじめるの?いつも、あんなに優しくて俺のこと可愛がってくれるのに。

さっき愛してるって言ってくれたのに。

そう思ったら、涙がでてきた。痛いときも泣いたけど、こんどはどんどん涙がとまらなかった。
気が遠くなった。
シグマが俺の名前を呼んだような気がする。

気がつくと俺はそのまま床で寝ていた。誰かがシーツをかけてくれていた。
なんで俺、こんな固い床で寝ちゃって・・・
ああ、なんだか恐い夢を見たなぁ。シグマにいじめられる夢。
俺は悲しい気持ちになった。
あんな事優しいシグマがする訳ないもの・・・。

痛い!

その感覚で、ふと顔をあげて見ると、ケイン博士とシグマが恐い顔でけんかしていた。


第2話

あれから俺はシグマと会わせてもらえなくなった・・・ケイン博士に何度もお願いしたけど・・・だめだった。
「いかん!いかん!エックス・・・また、恐い目に会わされるんじゃぞ!?」
博士は首をゆっくり振ると、大きなため息をついた。
そうなのかな・・・シグマは、もう俺のこと嫌いになったのかな・・・それともほんとは前から俺が嫌いだったのかな・・・。
ぽたっと涙がでた。
「エックス・・・。淋しいのは解るが、今のシグマと会っても前のシグマとは違うんだよ。解っておくれ。」
博士がぎゅっと俺を抱きしめてくれた。
優しく頭をなでてくれた。
でも。
楽しいお話を読んでもちっとも楽しくない。
前はワクワクした映画を観てもぜんぜんワクワクしない。
なにかすっぽり失くしたみたい。
こんなこと、いままでなかったな・・・。

それから、しばらくして俺はいつもみたいに廊下を散歩してたんだ。
その日はなんとなく、ケイン博士の研究室に行ってみたの。
博士の部下の人たちが集まってお話してた。俺のよく知ってる人もいたから声をかけようかなって迷ったんだ。
大事なお話中かな?

・・・そしたら、そしたら。とても恐いお話をしてた。
「・・・ケイン博士に、もう一度提案してみようか。」
「反対されても、やっぱりこの方法しかないよなぁ。」

俺は思わず走りだした。
部屋に帰ってベッドに入ると、がたがたふるえてた。
怖いよ怖いよ。
どうしよう。
どうしよう・・・ケイン博士が帰ってきたらやめてくださいって、お願いしたら・・・お願いしたら・・・聞いてくれるかな?
シグマに相談したかった。・・・けど、俺の話なんか聞いてくれるかな。

初めて、ひとりぼっちがこんなに淋しいことに気が付いた。

何時間かそうしてた。
博士はその日お仕事でどこか別の町にお出かけしてた。
「エックス、ただいま。帰ったよ。」
ケイン博士だ!
お帰りなさい!
そう言ったつもりだった。
「?エックス?もう一度言っておくれ。」
俺は・・・話せなくなってた。
声は出るけど、変な言葉しか言えない。
なんで!どうして?
ケイン博士が調べてくれた。けど、
「これは・・・自己保全プログラムか・・・。」
とっても困ったお顔をしてた。

俺はお勉強用の情報ボードに字を書いてお話することになった。
「エックス、一体どうしたんじゃ?」
俺はみんなのお願いのお話をした。
博士のお顔の色がさっと変わった。
「どうしてそれを!?・・・いや。お前は何にも心配しなくて良いんじゃよ。」
博士は優しく言ってくれた。
でも・・・博士・・・なんだか知ってたみたい。
俺は・・・生まれて初めて・・・博士が怖いと思った。

その日から、
俺は大急ぎで考えた。
どうやって・・・ここから逃げ出すか。
外に出るにはエレベーターと非常階段があるけど、火事でもないと、どちらもシグマが持ってたカードが、どこかの出入口でいるんだ。カードを俺に貸してくれたり・・・しないよねぇ。
いっしょうけんめい考えた。

そうだ。
いいこと思い付いた。
それは、大きい貨物ケージにもぐり込むこと。
扉を閉めると中が見えないし、大切な物を運ぶから強くゆれたり、乱暴にほうり出されたりしないはず。
入るのは研究室から簡単だけど、出るとき誰かに見つかるかも・・・。
なにか他に良い考えがないかな、・・・それとも俺の心配しすぎかな。博士が言った通りで、なんでもないことかも・・・。
でも、結局そうした。怖いのに勝てなかった。
毎日毎日、胸が不安でドキドキするんだもの。
みんなが忙しくて目が離れている時をねらって、ケージを開けたんだ。鍵はまだかかってなかった。
だいじそうな機械がていねいに包んであったのを何個か降ろした。そのままにしといたら積み忘れたと思われて、ケージを開けられて見つかっちゃう。
あんまり遠くまで運べないから、となりの部屋の使ってないロッカーに、そっと入れて戸を閉めた。
俺ひとり分のすきまにひざを抱えて座った。ケージを閉めると狭いけど、がまんがまん。
暗くて不安になったけど目を閉じてると思うことにした。
いろいろ考えた。
シグマやケイン博士とおしゃべりしたこと。俺の部屋に置いてきた手紙のこと。
・・・やりたいことがありますって書いたの。
本当は・・・やりたいことなんて、ないのかも。
でも俺の・・・体の中の何かが、何かを叫んでる。・・・それともこれは俺が故障しただけ?
ううん。博士も俺が壊れたんじゃなくて、とっても正しく反応しすぎたんだって言ってた。きっと本当だ。

やがてガタッとケージが動きだした。
ケイン博士の声が通りすぎるのが聞こえた。廊下ですれちがったんだ。
さよなら。さよならって、ちゃんと言いたかったですケイン博士。それにお礼も言ってない。お手紙に書きました。読んでもらえるかな・・・。
エレベーターに乗る小さなゆれがあった。
ああ、この上にはシグマがいるんだ。突然行って驚かそうかな。
・・・あはは。そんなことしたらシグマに捕まるよね。

涙がでた。・・・だめだめ俺は今ケージの中の機械なんだから。

何階か上がったあと、ケージはまた廊下を運ばれて、そのうち、停まった。
確かこの後は、トラックでどこかに運ばれるんだよ。
まだイレギュラーハンター本部の中だ。
荷物の行き先は・・・ちょっと遠い町。
そこで出た方がいいかな。ここで出た方がいいかな?
センサーを目一杯働かせてみた。近くに見張りの人がいる。
やがてトラックは、出発した。俺を乗せて。がたがた。
トラックは走る。
門で止められた以外は途中で誰かに呼び止められたりしなかった。どこで降りよう。
ケージが目的地に着いたら、そこからまた出られなくなるかも。
でも鍵は?
扉を押したら、かかっている。強く押した。やっぱり開かない。
なんとかして開けなきゃ。
そうだ。
テストで一度だけしか使ったことないけど、俺には確か予備武装があるんだっけ。
ケージを撃ってみた。

カァン!

すごい音!!
ちょっと扉がへこんだ。音はすごく大きいから、急がないと運転してるひとに気づかれて車を止められちゃう。

カァン!カン!ガァン!

トラックはあわてて急停止した。

バァン!!

大きな音をたてて扉が吹き飛んだ。
俺は運転席の扉がひらくより先に、荷台からとび降りた。


第3話

俺は思い切り走った。
とび降りたトラックから、はなれなきゃ。運転手さんに見つかったら、怒られちゃうよ!

こんなに走ったの初めて。
どこだか全然知らない場所だった。
町って近くで見るとこんななんだ!
画面の中ではたくさん見たけど、ほんとの町を近くで見たのも初めて!
立ち止まって、建物やお店や街路樹や電灯や・・・まわりをぐるぐる見回した。
俺、町にいるんだ。
でも、
うれしかったのは、ほんのちょっぴりの時間だった。

これから、どこに行こう。
考えながら、てくてく歩いた。行き先はないけど。
町に行きたいって、思った事はあるけど、それはシグマやケイン博士と一緒にお出かけがしたかったんだ。
ひとりぼっちで、お出かけすることになるなんて・・・俺、お金も持ってないし。どうしたらいいの?
ふと、お店の大きな画面が目に入った。
道を歩いてる人達が見られるよう、窓にとっても大きな画面を付けている。
ニュースをアナウンサーの人が読んでいるところが映っていた。
はっ、とした。
もし、シグマやケイン博士がテレビ局の人にたのんだら・・・俺なんかすぐ見つかっちゃう!!
二人とも、そういうお願いは、いつでもできる。
どうしよう!
・・・思わず、そこから走って逃げた。
けど、しばらく走ってどうする事もできないのに気がついた。

・・・誰かに見つけられるまで、歩けるだけ歩こう。
できるだけ遠くの景色を見ておきたいんだ。
俺はまた、歩きだした。この町はとても大きいから、歩いても歩いてもずっと町が続いている。
でも、そのうち町じゃない所にも出るよね。
いろんな看板があった。いろんな人達がいた。
ずっと歩いた。
空の色が黄色くなって、オレンジになって、紺色になった。
空に見とれながら、少しお休みした。
そこは公園で、道の横にイスがあちこち置いてあった。
座って空を見上げた。

やがて、お星さまがでた。
もう色は変わらないみたい。
また歩きだした。
夜になると、電灯がたくさんたくさん点いて昼と変わらなくなった。
にぎやかな所に来た。色の付いた光る看板がぱちぱちしている。
あちこちから音楽が聞こえる。
「よお!可愛コちゃん!」
わあっ!?
近くでいきなり誰かが声をだしたので、びっくりした。
「へへ、俺と遊ばない?」
えっ!?
・・・俺、この人と初めて会ったはずだけど・・・すごいなぁ!町ってこんなにすぐお友達ができるんだ!
せっかくだったけど・・・俺は首を横にふった。
「え〜?だめ?ちょっとそこらでさ・・・」
知らないその人の言葉はとてもうれしかったけど・・・俺にはあんまり時間がないんだった。
俺はもう一度首をふると、ごめんなさいっておじぎして、その人と別れた。
「ちぇっ!なんでえ!」
後ろで、怒ったような声がした。
・・・ごめんなさい。俺にもシグマ以外のお友達が初めてできたかもしれなかったのに。
・・・どうせ捕まるなら、あの人とお友達になっておけば良かったかな?
ううん。あの人に迷惑だよね。

考えごとしながら歩いたら、なんだか淋しい町に出た。
明かりは点ってるけど、さっきまでのとこと比べるとずいぶん少ない。
建物も汚れてるのに、誰もお掃除してないみたい。
近くでサイレンの音がした。お巡りさんのサイレンだ!
俺はびくっとした。でもサイレンは、どこか違うところに向かって行った。
ほっ。良かった。
そのとき、

いきなり誰かに抱きかかえられた。
すごくびっくりして、きゃっ!と言おうとしたら口を手で押さえられたんだ。
「大人しくしな!」
そのまま、建物の横の方にひっぱって行かれた。
俺のこと捕まえにきた人!?
そう思ったけど・・・
「満足させてくれりゃ、殺さねえよ」
俺を捕まえている人じゃない声がしたので周りを見ると、そこには他にも何人かいた。
??
シグマの部下の人達じゃないみたい・・・。
「ケッコー可愛いじゃねぇか。今日はツイてるぜ。」
「いけねぇなぁ。こんな所、夜中に一人でフラフラしちゃ。」
えっ!?そうなの?
「俺達が教えてやるよ。高くつく授業料だぜ。」
そう言うと、その人達は、くっくっくって笑った。
授業料・・・俺、お金持ってませんって言おうとしたけど、

!!

いきなり、壁に押し付けられて。
あ・・・どうして、この人が俺にキスするの!?・・・この・・・キス、あの時のシグマの!?
誰かが腕を押さえつけてる。別な人が俺を覗き込んでいやな笑顔になった。とてもいやな感じ!
嫌っ!
なんで?
あっ!!・・・足の間をさわってくる・・・!これ、これって!?
これって、シグマみたいに!?俺をいじめるつもりなの!?
どうして!?・・・この場所を歩くのって、そんなに悪いことなの!?どこにも書いてなかったよ!
あんっ!!
やめてっ!!
そう言いたかったけどキスされたままで、それに俺、言葉が変なんだった。
どうしよう。
どうしたら!

パンッ!!
俺は右手の弾を一発うった。
「うわっ!?」
「何だ!!」
腕は押さえられてたから、弾は関係ないほうへ飛んでいった。でもそこにいた人達をびっくりさせることができた。
俺は、思い切りジャンプして、その人達を飛び越えて走り出した。
後ろで、何か声がしたけど、とにかく逃げた。走った。
走りながら、だんだん涙が出てきた。
うわぁん!怖かったよ!!
そんな決まり知らなかったんだよ!
とっても怖くて、とっても淋しかった。こんなに、こんなに淋しい気持ち・・・

どれくらい走ったかわからないけど、気がつくと、道の向こうの空が、明るくなっていた。
きれい。淡いピンク色だ。もっとよく見える方角はないかな?
探しながら走った。
高い建物が少なくなって、空がよく見える場所に出た。
思わず、足を止めて空にぼおっと見とれてた。
色がどんどん変わって、薄紫、浅黄色、そして淡い青空になったころ。
俺はその道のずっと向こうで町が無くなっているのに気が付いた。所々にぽつぽつとお家はあるけど。

ずっと向こうには、ミルクティー色の砂地が広がってた。


第4話

なんて大きな砂のかたまりなんだろう。
こっちから見える場所は全部砂ばっかり。
でも、もっと遠くへ行けば、別の町や海や山があるはず。
そう。道のずっと向こうに行って見よう。
そういえば、砂の向こうに何か出っぱった物がたくさん見える。・・・町じゃないみたいだけど。
よおし!
とりあえず、あれが何か確かめてみよう。
それから他の場所も探検だ。
俺はてくてくと歩き始めた。

でも歩き出してみるとあの出っぱりが、ぜんぜん近くに見えて来ない。
あれぇ?どうして?眺めが全然変わらないよ。
まあいいや。
時間もないし。あそこにたどり着く前に、誰かが乗り物で追いかけてきたら、俺なんかすぐ連れ戻されちゃう。
俺は歩きつづけた。
ああ、お天気がいいなぁ。
しばらく歩くと、ぽつんとお店屋さんが見えてきた。
えーと 『なんでもあります』 『燃料補充お忘れなく』 『この先しばらく店ありません』
そうか、次の町まで行く人が準備をするんだね。
そういえば。昨日のおやつから何も飲んでないや。
あっ・・・でもお店でお買い物するには、カードかお金がないとダメなんだった。
・・・エネルギーが足りないわけじゃないし・・・がまんしよう。
いつもケイン博士がごはんを食べるとき、俺もそばに座ってエナジー缶を飲んでるのを思いだした。
ケイン博士、俺がいなくなったら一人でごはん食べるのかな・・・ケイン博士なんだかかわいそう・・・。
あのエナジー缶飲めないと思うと、もう一度飲みたいなぁ。
急に帰りたくなった。

ううん。
イレギュラーハンターの人が来たら、帰らなくちゃならなくなるんだもの。

お店の前まで来ちゃった。こんな所でお店をしててさびしくないのかな?
俺はちょっと迷ったけど、そのまま歩きだした。
「おおーい!」
え?
お店の人が出て来た。
「あんた、寄ってかなくて大丈夫か?見た所、歩きみたいだけど、遺跡地区まで行く気かい?」
俺はうなずいた。
いせきちくって言うのがこの先の名前なんだね。
「えー!?止しなよ!意地をはらずに途中でバスに乗った方がいいよ。ほら、そこにバス停あるしさ」
あ、ほんとだ。小さな屋根の待ち合い室の横に、バスの目印が立っている。
でも、バスもカードがいるはず。だめだなぁ。
俺は店員さんにバイバイして歩き続けた。
「おーい。オーバーヒートしなさんな!!」
へへっ、俺は太陽発電だから、お日さまがですぎて困ったりしないよ。
それに、ちょっとくらい暑くても何百度にもはならないから、俺へいきだよ。
店員さんに教えてあげれば良かったかな?

やっと。いせきちくがちょっぴり大きくなった。良かった、近づいて来たんだ。
砂の中の出っぱりは、砂と同じような色で、小さいかたまり、大きなかたまり、たくさんあるなぁ。
と、その時。
後ろから、乗り物のエンジンの音がした。
ふり向くと。
イレギュラーハンターの車だ!!
たいへん!
俺はあわてて走った!
道は一本きりだし、かくれる場所もないよ!どうしよう!
いきなり、何かが光って!?体にはげしく当たった・・・電気?

痛いっ・・・と、思ったときには、もう俺はイレギュラーハンターの車の中だった。
まわりで、何人かのハンターさんが俺を見てた。
「おい。お目覚めみたいだ」
「お早う。可愛いイレギュラーちゃん」
え・・・?
「なかなか起きないからヒヤッとしたぜ」
「なんせ、コイツ。どうやらケイン博士の『金の卵』ってやつらしいもんな。割らないようにしねぇと。」
そう言って、その人はハハハハって笑った。

??

「それを言うなら、『鶏』のほうだろ。なんせ貴重品らしいからな。」
え・・・俺のこと?なの?何かの間違いじゃないのかな・・

あ!?

『金の卵を生む鶏』!
にわとりはお腹をさかれて死んじゃう!?
急に、頭の中をいろいろな事が回った。
暗い箱の中、ケイン博士の助手の人達、廊下の話声、ケイン博士、シグマ・・・。
違うよ!
にわとりのお腹には何も入ってなかったんだよ!?
助けて!!
叫ぼうとしたけど、のどの奥でちょっぴり声がしただけ。だめだ。
涙がほっぺを流れた。
俺、にわとりじゃないし、卵なんか知らない・・・それとも、俺が知らないうちに産んでたっていうの?
ハンターさんのはなしが頭の中でぐるぐるする。
俺は・・・連れて帰られたら・・・にわとりみたいに・・・殺されるの?
ケイン博士に?
それともシグマに?
光景が浮かんだ。
二人が俺のお腹を裂いて、中から金の塊を取り出している。
やめて!!

「やめてぇッ!!」
俺は大きな声で叫んだ。ハンターさん達が、いっせいに俺の方を見た。
俺は起き上がると、車の扉にむかって跳んだ。
「あっ!?」
「行かせるな!!」
さっき俺を撃った電気系統の麻痺弾が、何発も放たれた。
「何っコイツ!当たらねぇぞ!?」
ハンターさんが怖い声で言葉を交わしながら、俺を捕まえようと囲んでくる!
俺は夢中で避けながら、ハンターさんのその武器を狙って撃ち返した。
「くそっ、そうそう良い仕事はないか!楽勝すぎて変だと思ったぜ」
「どうする?丁寧に扱えっても、これじゃよお」
「何、アンヨくらいなら、怪我させてもかまやしねぇさ」

きゃんッ!!
ハンターさんの攻撃が俺に当たった!
痛い・・・でもっ、何とか逃げなきゃ・・・!!
撃たれては、撃ち返すうちに、俺はだんだんハンターさんの弾に当たらなくなってきた。

・・・そして、
気が付くと、ハンターさん達は、みんな車のまわりにたおれていた。
・・・だ、大丈夫?
俺・・・
俺は、ハンターさんに話しかけようとして・・・
声が、また変な音になってしまっていた。
あれぇ!?さっき話せたのに!
時々うなり声をあげながら横たわっているハンターさん達・・・俺・・・俺
・・・こんなの・・・嫌ッ!

怖くなって、俺は逃げ出したんだ。
目の前のいせきちくへ走ったの。どこでもいいから、物かげにかくれたかった。
砂色の出っぱりの間を走って走って。
ひとつのすき間に入って、小さくなって座った。
さっきのハンターさん達がもう一度追いかけてくるかもしれない。
ひざを抱えて、じっと待った。
怖くてたまらない。あの痛さ、たおれてるハンターさん・・・痛そうな声だった・・・

今は何の音もしない。びゅうって、風の音だけ。
俺の息の音だけ。
なんだか俺、すごく疲れたよ・・・

気がつくと。
まわりは真っ暗だった
誰?電気消しちゃったのは・・・?
そうだ。
俺あのまま寝ちゃったんだ・・・ここには、電気なんてないんだった。もう、夜なんだ。

外に出てみた。
誰もいないみたい。

あ!すごいすごい!

夜空は見た事もない、たくさんのお星さまであふれていたんだ。


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