みじかいおはなし 




エックスは --- いつものように勤務時間が終了して勤務メモリに記録が済み、自分のデスクを片付けて、今日も一日無事に終わったことを確かめるように深呼吸を一つすると --- そそくさと、1階裏側ゲートに向かって小走りに移動した。
今日も、何事もなければ、ゼロが定期パトロールから帰ってくる時刻だ。

大丈夫。
さっき、ハンター無線で、『定時連絡、異常なし。これから帰る』と、ゼロがオペレーターと話しているのを聞いておいたんだ。
もうすぐ帰ってくる筈のゼロを、車両置き場のすみっこでエックスは待った。
実のところ、ゼロと待ち合わせしているのでもなんでもない。
ゼロはハンター本部内でも一二を争うと言われるほどの凄腕だったが、エックスの方はと言えば、自分でも何故同じ部隊に入れたのか不思議なくらいの、しかも入隊して間もない新入りだった。
ゼロとは正直、経験・実力、が全く違う・・・とエックスは思っていた。

そのエックスの手ですら必要なくらい、大規模な合同作戦がつい最近行われた。
初出撃ではなかったが、まだあまり実戦経験のないエックスにとってはハードな任務だった。
数人で行動していた筈が、仲間とはぐれて一人きりになったとき、突然敵のメカニロイド隊に遭遇してしまった。
なんとか全機倒したものの、敵の攻撃はエックスを追い求めるあまり辺り一面を穴だらけに破壊してしまっていた。最後のメカニロイドが自分の攻撃で機能停止するさまを、その攻撃をかわしながら、ジャンプした空中でエックスは確認し、ホッとした次の瞬間。着地した足場がもろくなっていて崩れ落ちた。
「わあっ!?」
慌てて、跳躍し足場を乗り換えながら進んだが、次々と崩れる足場に確かなものはなかった。
ついに、もうダメだ!落ちる!とエックスが思ったとき。
力強い腕が、軽々と、しかししっかりとエックスの腕を掴んでいた。
ゼロだった。
ゼロは、ひょいとエックスを持ち上げながら
「お前、なかなかやるじゃねぇか」
と言って、ニッと笑った。
エックスは助けられた相手を見ると、その場で真っ赤になった。
ゼロさんだ!
「あ、あのあの・・・あ、ありがとうございま・・・」
ゼロはエックスの事など全く知らなかったが、エックスの方はゼロの腕前の噂をよく聞いていた。
エックスと同じ頃に入隊したハンターたちの間でも、どの部隊の誰が強いだのといった噂はもちきりだった。
戦闘レベルが違いすぎるため、同じ部隊でも一緒に出撃したことがなかったので、こんなに近くで顔をあわせたのは初めてだった。
「最後まで気を抜くんじゃないぜ」
ゼロの言葉が、かあっとなっていたエックスを我に返らせた。
「は、はいっ」
そして、ゼロはエックスが仲間と落ち合うまで、共に闘ってくれたのだった。

それ以来、エックスはゼロに会いたい一心で、こうして車両置き場まで来ているのだった。
なぜ会いたいのか自分でも解らないが、ゼロの顔を遠くから眺めるだけでも、なんだか心がホッとするのだ。
これといった用もないし、恥ずかしかったので、最初は車両置き場の入り口からかなり離れて眺めていた。
が、ある時、歩いてきたゼロの方がそんなエックスを見つけた。
しょっちゅうそうしていたのだから、いつかはゼロの目に留まるのは、それは当然と言えば当然だった。
「よお。お前、こないだの」
「は、あの、ゼ、ゼロさんっ、こんにちはっ」
「お前、エックスっていうんだって?」
「!?何で、俺の名前、知ってるんですかっ!?」
「なんでって。同じ部隊なんだから、そこいらの奴に聞けば、誰かは知ってるだろ」
「えっ、あ、そうですね・・・」
「そうだ、奢ってやるから一杯付き合えよ」
「えっ、えっ!?」
そうして、「一杯」と言ってもその辺りの自動販売機の飲料を一缶、ごちそうになった。
エックスはそれだけですっかり嬉しくなった。
次からは、もう少し入り口近くで、帰ってきたゼロに
「ゼロさん!お帰りなさい」
と、声をかけるようになった。
ゼロも「おっす!」と手を上げて応えてくれたり、世間話をして行ってくれるようになっていた。

遠くから、ライドチェイサーの駆動音がしてきた。
ゼロさんだ!
「ゼロさん!」
ゼロはライドチェイサーから降りながら、
「ただいま。おい、エックス。いい加減、その『ゼロさん』はやめろよな」
と、言った。
「えっ、でも・・・」
「なんか、水臭いだろ」
「じゃ、ゼロ先輩!」
「へ?」
余計に、呼び方として親しいのかどうなのかゼロは疑問に思ったが、
まあ、一歩前進したということにしよう。
「ま、そのうち『ゼロ』って呼んでくれる仲になれればいっか・・・」
「なにか言いましたか?ゼロ先輩?」
「いや」




<おしまい>

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